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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)135号 判決 1996年3月28日

上告人 日本第一石油有限会社

被上告人 通商産業大臣

代理人 植田和男

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人日置雅晴の上告理由について

特定石油製品輸入暫定措置法三条及び五条による特定石油製品の輸入事業の登録制度は、石油製品貿易をめぐる国際環境の著しい変化等に対応し、石油製品全体の需給のバランスを保ちつつ、特定石油製品の輸入を円滑に進めるために、暫定的な措置として、自ら各石油製品の製造割合を調整し、特定石油製品等を備蓄し、また、輸入した特定石油製品を需要に適合した品質の製品に改質することのできる設備を保持する者を輸入主体として登録することにしたものと解される。原審の適法に確定したところによれば、我が国では、一次エネルギーの石油依存度及び石油の輸入依存度が諸外国に比べて高い水準にあり、エネルギー構造が極めてぜい弱であって、石油の安定供給の確保がエネルギー政策の根幹をなすものであるところ、(1) 石油製品は、原油の精製過程において各種の製品が一定の比率で製造されるという連産品特性を有し、ある種類の石油製品だけを製造することができないため、一部の石油製品の輸入が無秩序に増大した場合、当該石油製品だけではなく、石油製品全体の需給に混乱が生じかねず、(2) そのため、我が国では、従来、国内の需給動向に対応した石油製品の安定的な供給を図るべく、原油を輸入し国内で精製するという消費地精製方式を基本とする石油政策が展開され、特定石油製品の輸入は行われておらず、(3) 加えて、特定石油製品の貿易市場は、原油の貿易市場に比べて規模が小さく、不安定な状況であって、内外の石油情勢の見通しも不透明であったが、(4) 他方、石油製品の輸入拡大を求める国際的な要請も強く、我が国においては、輸入の拡大と石油製品の安定供給の基本となる消費地精製方式との調和を図る必要があったというのである。これらの点にかんがみると、前記登録制度の採用は、特定石油製品の円滑な輸入と石油製品全体の安定的な供給という重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であって、公共の福祉に適合するものということができる。そして、同法五条一号及び三号による規制は、右目的のために必要かつ合理的なものであって、これが著しく不合理であることが明白であるとは認められない。したがって、同法三条、五条一号及び三号に基づく特定石油製品の輸入事業の規制が、憲法二二条一項に違反するということはできない。以上は、最高裁昭和四五年(あ)第二三号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五八六頁の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋久子 小野幹雄 遠藤光男 井嶋一友 藤井正雄)

上告理由<略>

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